活性炭
2023年10月に岡山県吉備中央町の円城浄水場から、国の暫定目標値を超える有機フッ素化合物(通称PFAS)が検出され、その汚染源が適切に処理されずに放置されていた使用済み活性炭ではないかと指摘されています。
今回は活性炭について考えてみましょう。
活性炭とは
活性炭(Activated carbon)は、木材やヤシがらなどを炭化したものを、更に化学的または物理的な処理を施すことで物質の吸着効率を高めた多孔質の物質です。
多孔質とは細孔と呼ばれる微細な穴を多量に持つ物質のことです。
多孔質はスポンジのように穴だらけで、その体積に対して比較的に軽い(比重が軽い)ほか、表面積の数値が高いのも特徴です。
一般的に表面積が大きい活性炭ほど吸着性能と吸着容量は増加します。
通常の炭は1グラムで300~500㎡の表面積を持つと言われていますが、活性炭はその倍以上の1,000〜2,000㎡の表面積を持ちます。
例えば国内のサッカーグラウンドは約7,200㎡ですが、活性炭はたった数グラムでそれよりも広大な空間を持っているイメージです。
活性炭はこの広大な空間に多くの物質をキャッチ(吸着)するのですが、どんな物質でも吸着できるわけではありません。
吸着に関しては相性のようなものがあり、例えば水に対しては吸着力が低く、有機物に対しては吸着しやすかったりします。
使用したことによって一度吸着能力が失われた活性炭は、リサイクル可能です。
活性炭に吸着された物は約1000℃の高温を与える事で吸着能力が再生され再び利用できるのです。
活性炭の歴史
炭のもつ吸着力は、古代エジプト時代にはすでに活用されていたと考えられています。
紀元前1550年には古代エジプト医学について記した医学文書に各種炭素を医薬として用いることについて記述されています。
当時から活性炭(炭)の吸着能力に気づいていたかは定かではありませんが、現代でも慢性腎臓病(腎不全)により排出できなくなった体内の毒素を吸着させ、体外へ便と一緒に排泄する作用がある事から飲み薬として活性炭が処方されるため、何かしらの効果に気づいていたことは間違いないでしょう。
また紀元前約200年の写本には水の精製に関して木炭でろ過するとよい、という記述があります。
木炭の吸着能力は工業の分野に取り入れられ、精製した糖の脱色などに長らく使用されていました。
18世紀になると動物や骨といった木材以外の炭の製造がはじまり、更に1865年にはヤシ殻炭のガスに対する吸着力が注目を集めます。
19世紀中ごろ以降になると、炭に対してより高い吸着性能を与える技術=活性炭に関する研究が本格化し、20世紀には活性炭の工業的な製造が始まりました。
活性炭を用いたガスマスクは毒ガスに対する防護として優れており、毒ガス兵器の研究と共に国をあげて研究に取り組まれました。
このように活性炭は第一次世界大戦以降、軍需産業として成長を遂げてきた背景を持ちます。
近年では、都市の過密化や工業の急速な発展による不快な臭気や不要な色素、有害不純物などの除去、飲食物や環境などの純度を高めようとする動きがあります。
この需要にともない活性炭の吸着性能も向上し、高度浄水処理をはじめとする水質改善やダイオキシンの除去、大気の環境浄化など、本当に様々な用途に対して活用されています。
ピーファス(PFAS)
吉備中央町の円城浄水場の水から、PFASが極めて高い濃度で検出された問題で、町は発生源の調査をしていました。
その結果として町は、長らく放置されていたとみられる使用済み活性炭の管理をしていた業者に対して、住民に返還した過去3年分の水道料金を含む1億円を超える損害賠償の請求に踏み切っていたことが2024年7月に発表されました。
PFASとは有機フッ素化合物の総称です。
PFASについては今回の水質汚染騒動より以前から議論されていました。
有機フッ素化合物は、1930年代に空調機用冷媒やフッ素ポリマー(フッ素を含んだプラスチックで現代ではインプラントなどにも使われる)の開発から始まりました。
有機フッ素化合物は永遠の化学物質と呼ばれるほど、薬品に強く、燃えにくく、電気を通さないなど多くの特徴を持ち、社会生活の進化を支えてきた物質です。
しかし、有機フッ素化合物を含む製品が寿命を迎え廃棄されると、その卓越した耐久性から環境下での残留性が指摘されました。
特にそのうちのピーフォス(PFOS)、ピーフォア(PFOA)という部類については生物蓄積性や毒性が懸念され、近年ではPFASという総称で、各国及び地域で規制が議論されていたのです。
PFASは1万種類以上あると言われています。
もちろん、その全てが有害と認識されているワケではありませんが、国内外において製造、使用等が規制されるといった動きが出てきているのです。