山火事
2025年は大規模な山火事のニュースが立て続けに報道されています。
山火事の出火件数やその規模は年々減少傾向にありますが、減少しているときこそ意識を改めて知識を身につけるべきなのかもしれません。
今回は「山火事」について考えてみましょう。
山火事の原因
山火事は消防用語で林野火災といいます。
林野火災の出火原因は主に人為的なものだといわれ、たき火が32.0%、火入れが19.0%、放火(疑い含む)7.5%、たばこが3.8%となっています。
原因不明の案件も30%(落雷・強風に遣る摩擦発火を含む)程度ありますが、ほぼ人為的な原因であると考えられています。
人為的ではない…すなわち自然に出火する原因となりうるのは落雷のほかに、木々や枯葉などが断続的な風によって摩擦熱を生み出火に至るケースが知られています。
しかしこの摩擦熱による出火は極度に乾燥した環境と、木や葉に油分がある状態で、強風によって擦り合わされる必要があるため、オーストラリアなどの乾燥しやすく、ユーカリのような油分の豊富な樹木の密集地帯であれば、極稀に発生する可能性があるという内容のもので、日本では、ほぼ発生しないと考えられています。
火は消えたようにみせかけて燻っていることもありますので、山林の近くに限った話ではありませんが、火の扱いや後始末には細心の注意を払いましょう。
山火事のデータ
令和5年(2023年)のデータによると、日本全国における林野火災は過去5年平均で年間1300件ほど発生しています。
その総焼損面積は年平均で約700ha(ヘクタール :1ha = 1万㎡)でした。東京ドームの大きさは約4.7haですので、日本では年間に林野火災だけでも東京ドーム150個分くらい燃えているということです。
それに対し、今年(2025年)2月26日に岩手県大船渡市で発生した林野火災は焼損面積が2,900haとされています。
また3月23日に岡山県の金甲山で発生した火災は約560ha、同日に愛媛県今治市の山林で発生した火災は約440haの焼損面積となっており、近年の林野火災における総焼損面積(年間約1300件分)からみてもとても大きな火災であったことがわかります。
令和5年に日本で起きたすべての火災38,672件のうち、林野火災は約3.4%にあたる1,299件でした。
戦後の日本において最大級の林野火災と言われているものは昭和36年(1961年)5月29日に起きた三陸大火(岩手県)で、焼失面積は約26,000haとされています。
たき火の不始末や材木の炭窯からの出火が原因とされ、台風によってフェーン現象が起き、強風(最大瞬間風速44.3m/s)と、それに伴う乾燥が火災を拡大させたと考えられています。
昭和36年は「75年ぶりの異常乾天」と言われるほど乾燥した気候が続き、当時は防火対策や消火技術が現在ほど発展しておらず、火災が広がりやすい状況であったこともあり、林野火災の焼損面積が18万haという異常な年でした。
ちなみに2025年から過去70年分の林野火災の記録を見ても年間の焼損面積が2番目に多い年は1965年(昭和40年)の約21,000haです。
これは異常気象による乾燥の恐ろしさと捉えるべきでしょうか。
※上記の焼損面積には調査中のものも含まれるため、2025年3月31日時点の公表データに基づいています。
良い山火事?
スモーキー・ベアというマスコットキャラクターをご存じでしょうか。
彼は1944年にアメリカで誕生し、山火事の危険性を人々に伝える活動を担ってきました。
そのスローガン「注意すれば10の森林火災のうち9を防ぐことができる」というメッセージは広く支持され、スモーキーの名前はアメリカ中に知られる存在となりました。
しかし、後の研究によって、スモーキー・ベアの活動が思わぬ批判を受けることになります。
専門家は、過剰な火災抑制が森林に不要な可燃物を蓄積させ、それが大規模な山火事を引き起こす原因となると指摘しました。
一方で、小規模で自然に発生する山火事は、むしろ生態系を維持する重要な役割を果たしています。
一部の植物は種子を発芽させる際に火災による熱を必要とし、また競争する他の植物を排除するためにも火災の助けを借りています。
しかし、長い間火災が抑制され、可燃物が不自然に蓄積すると、これらの植物が想定していた規模を超える大火事となり、生態系全体が損なわれる可能性があるのです。
この考え方は「火災生態学」として知られており、現在では、生態系にとって良い影響をもたらす小規模な火災は、人に危害が加わらない範囲であれば無理に防がず、必要に応じて容認すべきだと考えられています。
日本で良い山火事に部類される例として火入れがあります。
火入れとは害虫駆除や土壌を整えるための焼き畑などのことを指します。
火入れは原則禁止されていますが、自治体に許可を取ることを前提に行うことが可能となっています。