手洗いの化学
みなさんこんにちは
特殊水処理機『新ん泉』の櫻井です。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19[以下、新型コロナ])の予防対策やインフルエンザ対策として盛んに手洗いが推奨されています。
実際の手洗いの効果はどの程度なのでしょうか。
今回は「手洗いの科学」について考えてみましょう。
手洗いの始まり
19世紀初めのころは、出産前後で担当の医師が手を洗うという習慣が無かったそうです。
その為1840年代オーストリアのウイーン総合病院の第一産婦人科では産褥熱で10%以上もの産婦が命を落としていたそうです。
そんな医学界で手洗いの概念を生み出したのは、ウィーン総合病院の産科医であったイグナーツ・ゼンメルヴァイスです。
当時は、病原菌という概念すらなかったようです。
しかし、その手洗いが認められ広く行われるようになったのは彼の死から10年以上たってからのことでした。
手洗いだけではなく、手術で使う器具や病室のリネンの洗浄も徹底させ、病院内での産褥熱死亡者ゼロを達成します。
彼は1855年にはブダペスト大学の産科教授に就任します。
しかし、ゼンメルヴァイスは自分の学説を認めない者に対してひどい批判を繰り返したため、その職を追われてしまいます。
手洗いの重要性を伝えようと数々の病院を回りますが、彼の指示は半ば強要や脅しに近いものでした。
医学会から危険人物として扱われたゼンメルヴァイスは、最後まで認められることなく、錯乱状態となり精神病院で47年の短い生涯を終えました。
ゼンメルヴァイスが生涯をかけて主張した手洗いは、彼が亡くなってから10年以上も後に「消毒法」と名を変えて世に普及します。
それを広めたのはジョセフ・リスターというイギリスの外科医です。
(妊産婦の命を守りたい~“手洗い”の創始者 産科医イグナーツ・センメルヴァイスの生涯・・参照)
手洗いの種類
人の手は感染症を起すウイルスや細菌など病原微生物たちの運び屋だと言われています。
本来は健康な人の手には微生物が常在していますが、その中に感染症を起こす病原微生物は存在しません。
しかし病原性微生物の付着しているものに触れてしまった場合は、手洗いによって洗い落とす事ができるため感染症予防に対する効果が期待されています。
手にいる細菌たちは2種類に分けられ、皮膚の表面や一時的に付着する細菌のことを通過細菌といい、皮膚の深層などに普段から存在する細菌のことを常在細菌といいます。
手洗いに要求される清浄度は場所や状況によって以下のように異なり、日本の定める手洗いの定義には3段階あります。
①日常手洗い
一般家庭で、汚れの除去を目的とした石けんと流水による手洗い。
②衛生的手洗い
学校給食など食品衛生現場で、汚れを落とすだけでなく、通過細菌の除去を目的とした手洗い。
③手術時手洗い
最も清浄度が要求される手術室で、常在細菌までもなるべく少なくする厳密な手洗い。
感染経路を遮断するための手洗いには、単に汚れを除去する日常手洗いではなく、目に見えない付着微生物を対象にした衛生的手洗いが必要であると考えられます。
効果的な手洗い
新型コロナの影響で手洗いの動画や指導などは多く見られますが、何故その洗い方をしなくてはいけないのかを意識をしているでしょうか?
手のひらのシワ(いわゆる手相の線)や傷跡などの凹み、指の爪周りの隙間などは意識せずに洗っていると細菌が落ちにくい部分です。
手のひらを洗う時にはシワを伸ばすように意識しながら洗い、爪の周りを洗う際は隙間を広げるようにしながら洗うとより効果的でしょう。
手洗いの方法ごとのウイルス除去効果を比較した研究では、手洗いをしなかった状態のウイルス数と比較して、流水で15秒洗うだけでも100分の1にまで減少することがわかっています。
ハンドソープで60秒もみ洗い後、流水で15秒すすぐ方法では10万分の1にまで減少することが指摘されています。
しかし日常生活の中で1分間も洗うことを習慣づけるのはなかなか大変です。
そこで興味深い話として、ハンドソープで10秒もみ洗い後、流水で15秒すすぐことを2回繰り返すと1分間洗ったときよりさらに少ない100万分の1にまで減少しているという結果が出ています。
これは時間をかけ1回で満遍なく洗おうとするより、短時間であっても2回に分けて洗う方が時間的にも効果的ということです。
また、手洗い後には共用のタオルなどで拭くのではなく、ペーパータオルなどの使い捨ての物で水気をとる方がより衛生的です。
なお手に水気が残っていると手荒れの原因になるのでしっかりと拭きましょう。